したむき

 私は年に2回くらい、不幸な人生について想像してみます。
 と言うと、変態かと思われそうですが、違います(多分)。
 ニュースで見て強く印象に残った或る事件を、たまに思い出すのです。

 或るおじいさんがロトくじで、毎回同じ番号を何十年間も買い続けてきたのに、たまたま買い忘れた回に、その番号が当選していた。おじいさんは自殺してしまった。

 そんな事件です。欧米でした。
 聞いた時、他人事ながらひどく残念に、そして気の毒に思いました。落胆と虚無感と徒労感がね、立ち直れないほど大きかっただろうなぁ、って。
 表層は瑣末事かもしれませんが、根幹は非常に深く人間存在に関わると申しましょうか、今まで何度もわくわくしながらくじを買い、発表を楽しみに待って過ごした日々を無駄だったと感じたり、冒涜されたと感じたり。これから一体どんな気持ちで生きればいいのかとも思うし。この先、絶対、二度と同じ番号では当選しないだろうとも思うでしょうね。
 人生は意外に些細なことに支えられているのかもしれません。
 悲しみや苦しみを乗り越えられないと辛いのは勿論ですが、落胆や後悔も乗り越えられないと、生きていくのが難しいんだなと、痛ましい気持ちになり、人生について考えさせられる事件でした。

 もし今なら、「あの金で何が買えたか」ってブログでも書いて人気ブロガーになったら良かったのに。テレビ出演もして、昔好きだった女優さんにも会ったりして、意外に充実した余生を送ったかもしれないのに。世界のニュースになったくらいだから、エッセイも売れたかも。(ごめんね、ふざけてないのよ。妄想してるだけ)

 他人事とは言え、あらゆる意味でもったいない話でした。

 で、私、最近は、不幸な人生と言うより「下向きな人」について考えています。
見てるこっちがげっそりするほど前を向かないペシミストやダメ人間の出てくる話、無かったかなぁと暇な時に考えています。

 と言うのも、「下向きな人」の出てくる話を探してちょうだいって、頼まれたから。以前からメルマガ等で話題にしていた亀鳴屋さんに。亀鳴屋さんの発行予定に『したむきな人々』っつーのがあるんですよ。

 じつは現在すでに『ひたむきな人々』という名の短篇集は完成して、売り出し中です。
 こちらは、なにしろ「ひたむき」ですし、作品も志賀直哉とか、岡本かの子とかね。大学の教科書にも使われているんですって。カバー絵はグレゴリ青山。
 それと姉妹編で出したいなぁと計画されているのが、『したむきな人々』です。

 私、1つ「下向きな人」を思いついたんですが…、有名すぎるかなー。
 アンドレ・ジッドの『秘められた日記』。これの抄を、『生きるかなしみ ちくま文庫』(山田太一編)で読みました。
 ジッド(※同性愛者)が妻と旅行中の汽車の中、窓から手をのべて、隣りの車室の少年たちの腕にふれてひっそり楽しむ、その後、妻に非難よりは悲しみに近い調子で言葉をかけられるところ、下向きでいいと思うのですが、ちょっと問題あるかな? 「下向き」と言うより、やっぱ「生きるかなしみ」かな?

 あとは、『赤毛のアン』に、なんかものすごいペシミストのおばさんが出てきた気がします。稲中の古谷実や、岡田あーみんのマンガにもあったような気がしています。今度、確認してみます。

 因みに、『生きるかなしみ ちくま文庫』(山田太一編)には他に『私のアンドレ』(時実新子)、『二度と人間に生まれたくない』(宇野信夫)等が収録されており、バラエティーに富んだ生きるかなしみを読むことができます。山田太一さんの名編集です。私ならそこに、前述のロトくじのおじいさんのニュースを入れるなぁ…。

出会った本感心する本

  •   26, 2009 23:39